2025年2月28日
正蓮寺植物日記 | 2月の梅と薬草園のお話
2月の正蓮寺植物日記は梅。
そして、春からいよいよ始動する伊豆の国薬草園についてのお話を少しご紹介します。
馥郁(ふくいく)たる梅の香り

寒さのラストスパートを感じつつ、春の日差しにおされた2月の終わり。
出張が続き、福岡、山口、島根、京都を巡る中で、雪の中より芽吹く植物の美しさに目を奪われる。
私は雪降る街の冬を知らない。
伊豆の国に住む人々の多くも同じでしょう。
住み慣れた街を離れてから感じる、この土地の温かさ。
馥郁(ふくいく)たる梅の香り、と言われるほど香り高い梅の花。
梅の花の香りを思い出すことができますか?
もし、ピンとこないのであればぜひ正蓮寺を訪れてください。
思い浮かんだ梅の香りを堪能したい方も、ぜひ。

正蓮寺さん入っての右側(本堂の反対)にある、黒い納屋。
ここの枝垂れ梅はとってもワイルド!
壁を突き抜いて、優雅に枝をたなびかせる。
枝垂れ梅は2月末で1分咲きなのでこれからが見ごろ。
梅、枝垂れ梅が順番に咲き、3月になるとお山さん(裏山の愛称)の景色もドラマチックに変わる。
山の桜が日に日に豊かに膨らんで、満開の頃にはまるで桃源郷のよう。
正蓮寺にできる、小さな薬草園のお話
ここからは粛々と冬のうちに準備を整えた薬草園のお話。
正蓮寺さんに土地をお借りし、私が植物の苗をお貸しし一緒に「植物を愉しむ場」をつくる試みだ。
植物園や薬草園は、世界中のどこにでもある。
20代の頃は海外に憧れて世界各地、特にヨーロッパの植物園をめぐっていた。
イギリスのキューガーデンやドイツのベルリン=ダーレム植物園、オーストリアのパルメンハウス。
どの植物園にもそれはそれは美しいガラスの温室がある。

かつての王族が、世界中をめぐって珍しい植物をハンティングしてくる「プラントハンター」を雇い、珍しさや美しさを競って、愛でたのが温室のはじまりである。
冬が暗く長いヨーロッパの人々にとって、熱帯の極彩色の植物は憧れの極みだった。私たちにとってあまりにもありふれたみかんも、富の象徴。ヨーロッパの貴族がオランジェリー(orangery)という温室でしか育てられない、高級品だったのだから。
美しく栄華を極めた人々も、最終的には「ここではない、どこか」「どこかにあるはずの、なにか」を求めていた。
誰かが時代を超えて恋焦がれて求めた「どこか」はここにあり、誰かが求めた「なにか」もここにあり。そう、伊豆にあるのだ。
そんな発見と喜びに溢れた小さな植物園、薬草園をはじめたいと思い、元浄さんに相談。
せっかくなのだから伊豆ならではであり、仏教にまつわる薬草園にしようとなった。
薬草園は、正蓮寺の山と畑と植物を整備し守ってくれている仲村さん(こども園営繕職員)が整えてくれた。あっという間に美しく整えられた庭に驚き、感謝するばかり!

花祭りに欠かせない甘茶を作る天城甘茶は入手困難。正蓮寺のガーデニング樹木葬「えくぼのにわ」「えくぼのおか」などを手がける造園屋さんの大矢さんがなんとか見つけてくれた。
数十年前に空中スイカを独自に始め、しょうれんじこども園の園児さんのために計画してくれている高橋さん夫妻が、芍薬を贈ってくれると聞いた。
まだはじまったばかりなのに、植物のご縁が広がってきて、とても嬉しい。
他にはなにがいいだろうか。
千手観音の手を彷彿とさせる、仏手柑。伊豆の薬草ミシマサイコや戸田橘などを考えている。
季節は待ってくれない、急がなくては…
みなさんのおすすめ、希望をぜひ教えてください。
植物採集家 古長谷莉花