読むラジオ

2025年3月6日

読むラジオ|君に卒縁はない

この記事はポッドキャスト「伊豆の国しょうれんじラジオ」2023年4月配信のエピソードの書き起こしとなります。音声版はこちらからお聞きいただけます。(リンク

【話しているひと】

渡邉元浄(以下、住職)
遠藤卓也(以下、遠藤)※お寺の相談役、各地のお寺に詳しい

=======================================

遠藤:元浄さん、こんにちは。

住職:こんにちは。

遠藤:今日は正蓮寺の庫裏※1の2階からお届けしていますけれど、外でいろいろな音が聞こえていますね。

※1庫裏(くり):住職などの住まい。庫裡とも呼ぶ 

住職:そうですね、境内にたくさん配置しているスピーカーのサウンドチェックでエンジニアの方が来てくれています。

遠藤:鳥の鳴き声も。

住職:うちのお寺はこの「お山さん」※2に守られていて。メジロ、ウグイス、シジュウカラ、いろいろなヤマドリが住んでいます。今年はひまわりの種やみかんを置いていて、いつもより鳥が多いですね。

※2お山さん:山を敬い、「お」と「さん」を添えて、園のみなさんはお山さんと呼んでいるそうです

遠藤:鳥さんたちに来てもらえるように。

住職:僕のおじいさんの頃(昭和48年)に山を切り崩してできた境内なので、なかなか雰囲気がありますよね。ヤマザクラも40本ぐらいあるでしょうか。

遠藤:きれいですね。

住職:この桜並木の登山道をぬって、子どもたちの「やっほー」という元気な声が聞こえてきます。

遠藤:平和なシーンですね。

住職;近所の方々や高齢者施設に入所している方が、「今日は黄色(の帽子の子たち)が登ったねぇ」とか、「今日は緑が登ったねぇ」「青いのは、ずいぶん小さいねぇ」って。施設は300メートルぐらい離れてますけど、どんどん目が良くなってる。

遠藤:園児の帽子の色ですね。

住職:一番小さいクラスは、水色帽子のばら組さん。2歳児がね、てくてくてくてく登っています。

遠藤:小さい子でも登れるサイズのお山いいですね。


住職:はい。さて、うちのこども園も、出会いと別れの季節です。少しずつお迎えの際保護者さんから「今日が最後です、ありがとうございました」と言われるようになり、物悲しく寂しく思ったりしますね。そんな今週のお寺の掲示板は、「君に卒縁はない」。

遠藤:見ました。卒園の「園」が、ご縁の「縁」ですね。

住職:卒園はしても、ご縁に卒業はないという。

遠藤:たしかに、ご縁を卒業するなんてできないですよね。

住職:…ああ、そうだな。あの話をしたいな。本当に卒縁はないなぁと思った話。

遠藤:聞かせてください。


住職:ある日、僕がいつもどおり本堂で法事をおつとめをして、「今後ともよろしくお願いします」とお檀家さんをお見送りして。お檀家さんがてくてく駐車場まで歩いていくその先に、1人女の子が立っていたんですね。中学生かなと悩むくらいの。1人でいるなと思いながら僕もちょっと覗いたりして、向こうもこちらをチラチラ気にしてるんですね。

遠藤:うん。

住職:試しに手をあげて合図してみようかなと両手でバンザイしたら、その動きが僕らしく思えたのか、急に僕を認識したんですね。「あっ、園長先生だ」と。こちらをぱっと見て、たったったったっと走ってきた。

僕の目の前にその子が立って、笑顔で「7年前にお世話になりました、〇〇です」と深々とお辞儀をして。「ああ、よく来たね、おかえり」って言ったらね、下げた頭が上がってきて大粒の涙を流してる。ボロボロボロボロ泣き始めて、僕の胸に飛び込んで「よしよし」ってしました。

1分ぐらいそうしてましたかね。「そうかそうか」と言ってるうちに、だんだん呼吸が整ってきて。

遠藤:うん。

住職:そうしたらその子が僕に言ったのね。「お母さんと喧嘩して、飛び出してきました」。「そうかそうか」って聞いてると、「洗濯物を出しておいてって言われたのに、私が出さなかったから」って。かわいいでしょう。それで出てきちゃうぐらいだから、よっぽど今まで積もってきたものもあるのかもしれないですけれど。

「そうかそうか、ちょっとここにいな」と、本堂に入ってお参りをして、あたたかい飲み物を飲んで、ひとしきり話をして。うちに戻って娘を呼んで、「お姉ちゃんが遊びに来たから一緒に遊ぼう」と、その子と僕と娘の3人で縄跳びをしたり、あやとりをしたり、駆けっこをしたりして過ごしました。

(しばらくして)顔色を見てそろそろかなーなんて思って「どうする?」と聞いたら「帰ります」って。帰るって言ったってね、「家どこだっけ」と聞いたら歩いて1時間ぐらいかかるところで。

遠藤:そこから歩いてきたんだ。

住職:「じゃ、送っていくよ。どこに行けばいい?お母さんのところ?」「お母さんのところはいやだ。おばあちゃんちにお願いします」「わかった」。ってやりとりがありました。

そして車に乗って、おばあちゃんちに着いて、扉をトントン。「ごめんください、園長です~」「えっ!園長さん、こんにちは。あらまぁ、うちの孫がすいません」と、そんな感じです。

卒園して7年経って、帰巣本能なのかわからないですけれど、その子がそうやって来てくれた。そういうこともあって、「君に卒縁はない」と。

遠藤:なるほど。

住職:いつでも家から逃げ出しておいで、とは言わないけれど。いつでも君に「おかえり」って言うよ、というメッセージですね。

遠藤:ふと1人になって、どこに行ったらいいかわからないときに行ける場所ってなかなかないですよね。

住職:そうかもしれないですね。こども園は朝7時から18時まで11時間開所しているので、その子によって利用する時間は変わってきますけれど、それでも自宅で寝てる時間を除いたら、子どもにとっては一日の大半を過ごす場所なんですよ。帰巣本能が芽生えてしかるべきと言ってもいいくらいと思いました。

遠藤:そうですね、幼い頃に過ごして。

住職:僕も「なんで来たの?」「どうしたの?」と聞くより、「そうかそうか」って。でもね、これは決してただのこども園のエピソードではなく…そこに仏さまとか、守ってくれているなぁという存在を感じるんですよね。

遠藤:その子も園長先生に会いに行こうと思ったわけでもないのかもしれない。

住職:そうですね、僕はたまたま鍵にはなったかもしれないけれど。さて、あれから来ないからうまくいってるのかな。

遠藤:もしかしたら、このポッドキャストを聞いてくれているかもしれないですね。

住職:聞いてくれていると嬉しいな。

遠藤:正蓮寺ってやっぱり…元浄さんはいつも、「お寺は悲しみに来ていい場所」と話してますよね。悲しくなったときに行ける場所。そこから元気になろうとか、そういうことでもなくて。悲しいときは悲しみましょう、というスタンスで迎え入れてくれる場所なんだろうなと感じます。

住職:ですね。「卒縁はない」エピソードはまだまだたくさんあります。

遠藤:また4月になったら新しい年度が始まりますけれども。

住職:そうですね。新入園児さんも入ってくれて新しい1年が始まります。

遠藤:今日は周りはにぎやかにサウンドテストをしていたり、いろいろ準備をしている正蓮寺からお届けしました。

住職:はい、いつでも備えております。今回は3回目ですけれど、聞いてくださってる皆さんにお礼を言いたいなと思います。いつも聞いてくれて、ありがとうございます。

遠藤:ありがとうございます。ではまた。

住職:ありがとうございました。


書き起こし:小関優 https://yuukoseki.com

音声版(ポッドキャスト):