植物日記

2025年3月24日

正蓮寺植物日記 | 3月は盛りだくさん サンシュユ・桜の開花・蓮の植え替え

3月の正蓮寺植物日記は3月は盛りだくさんです。 
サンシュユの開花、一番桜の開花、蓮の植え替えがありました。


春までの希望を紡ぐ黄色い光

2月末まではいつ春が来るのだろう…冬は永遠なのではないか、と毎年不安になる。

けれども、3月に入った途端に次々と植物たちが芽吹き、花が咲き乱れて大慌てだ。

正蓮寺の3月も植物たちがあちこちで目覚めて、賑やかになっている。
 

今月から素敵な若きアーティストに植物画をお願いできることになった。夜中に届いた写真を見た瞬間、思わずほう…とため息が出ていた。

美しくて、とても優しい、希望の花。

私がもっとも美しいと感じているサンシュユの花の【星のような】煌めき。これが瑞々しい水彩画で、やさしく表現されていた。

 

江戸時代中期ごろ日本に渡来したこの黄色い花を咲かせるサンシュユは、秋には赤い果実が実り、これを乾燥させたものが生薬(山茱萸)となる。

以前NHK朝の連続テレビ小説「らんまん」の主人公となった牧野富太郎博士は、このサンシュユをハルコガネバナ(春黄金花)と命名した。葉が芽吹くのよりも先に、黄金色の煌めく星のような花が枝にポワポワと咲く姿はなんともあたたかく、「春はちゃんと来るので安心しなさい」と語りかけてくれているようだ。


正蓮寺の一番桜は法進桜(ほうしんざくら)

サンシュユに励まされているうちに、気がつけば正蓮寺の一番桜が咲いていた。

河津桜ですか?と住職の元浄さんに尋ねたところ、「お山さんの法面に咲いているのは、河津桜の改良種で、あるお檀家さんがご子息を亡くされたことを縁に掛け合わせた新種だそうです。」ということだった。

春一番に咲く法進桜は、10年経ってさらに大きく美しく咲き誇っている。
 

私の父も生前(5年前かな)、正蓮寺のお山を眺めて「桜が綺麗だから、俺が死んだら花見がてらきてくれよな」と言っていた。
 

ありがとう、悲しい、寂しい、大好き。
何年経っても変わることのない「また会いたいよ」という気持ち。

 

正蓮寺の植物にはたくさんの人の人生や思いが詰まっていて、悲しみでぎゅっと強ばった心、寂しさで溢れる涙を少しだけあたたかな気持ちにしてくれる。
 

桜はこの後も次々と咲き乱れていくので、ぜひ足を運んでいただきたい。まさに、山笑う時期。お山を散歩して、ふふふと笑みが溢れる季節。

お寺の花しごと

3月の大切な花しごと、それは蓮の植え替え。

正蓮寺ではローリングロータス方式という、土を入れ替えない方式で蓮を植え替えている。ローリングロータス方式を使うと①土を用意しなくて良い②作業負担が少ない③水中生物を保護できるというメリットがある。
 

水中生物の生きる環境が保たれるおかげで、夏場にヤゴが孵化し、ボウフラを食べてくれる。そのおかげで蚊がほとんどいないお寺でいられる。秋になるとトンボが飛び交い、風情があるしいいことずくし。
 

トラックいっぱいに積まれた、去年を彩ってくれた蓮にお別れを告げる。

皆で、蓮根を洗い静かに鉢に植え込んでいく。
泥を掻き回し、古くなった蓮根を拾い上げ、新しい元気な蓮根を沈める。


お話しながら、花仕事(ハナシゴト)をする。コロナ禍で一時途絶えてしまったが、おしゃべりしながらのんびりハスの花の手入れをする、柔らかな時間を過ごしたい方は、ぜひ来年ご参加ください。

1週間後に再び訪れたると、澄み切った水に眠る蓮がずらり。
すっきりとした気持ちの良い空気。

たくさんの人の手仕事で育ったハスは特別支援学校にも「蓮タル」されている。

お寺を飛び出して、離れた場所の人々も笑顔にしているというのがなんとも元浄さんらしい取り組みだ。

 

正蓮寺薬草園のためのフィールドワーク

そして、いよいよ4月8日はお釈迦様の誕生日で「花まつり」!
この日の植え込み作業を目指し、正蓮寺薬草園の植物の準備をはじめている。

 

伊豆に生える植物は、あらゆる国から辿り着いたものも多い。植物の美しさだけではなく、どんな風に私たちが付き合ってきたのかを捉える民族植物学(Ethnobotany)の観点から探求中だ。

 

植え付け予定の戸田橘について、生育環境はどんなところが良いのだろうとフィールドワークに行くと、戸田橘のすぐ下にほぼ野生化したチャノキを発見した。昔から住んでいるという方に聞くと、おばあちゃんと一緒に山にお茶を採りに行っていたと聞く。放置されているが、それらの名残だろう。
 

花祭りに欠かせない「甘茶」という、ヤマアジサイから作る発酵茶がある。
文字通り甘く、多くは寒冷地で作られているが、天城甘茶という天城自生の品種ならば伊豆の国市でも十分栽培可能だと知る。伊豆の集落でも庭先に1本天城甘茶を植えていて、花祭りの際に、新聞で包んで揉み込み発酵させた甘茶を使っていたと伝え聞いた。
 

世界のどこかに咲く植物を、あなたの隣に。
伊豆の植物を世界に伝えていくために、昔懐かしく愛でた植物の話、家族との思い出、薬草園に植えて欲しいリクエストなどせひお聞かせください。
 

植物採集家 古長谷莉花