植物日記

2025年4月29日

正蓮寺植物日記 | 4月は始まりの月

4月の正蓮寺植物日記は春爛漫。
4月8日の花まつりの日に、正蓮寺のお山さんとえくぼの丘に小さな伊豆の国植物園がオープンしました。
※お寺の裏山の愛称「お山さん」。正蓮寺境内にある樹木葬墓地「えくぼのおか」。

 

伊豆の国 小さな薬草園の物語が始まる

4月の正蓮寺の植物たちは目まぐるしいスピードで花が咲き誇り、芽吹き、命のリレーを繋いでいった。
3月下旬まではなかなか市場に出てこなかった薬草の苗も、一気に出回るようになる。ほっと一息しながらも、慌てて薬草園の準備を進める。

 

伊豆ならではの薬草として、ミシマサイコも外せない!
戸田橘もお譲りいただけるとは、嬉しい!

他には何を植えようか?

購入するのではなく、ご縁があった植物を選ぶのが正蓮寺の植物園らしいだろう。
植物が本来生きてきた環境、育つ大きさ、棘の有無などふまえ、どこに何を植えようか、悩むのも楽しい時間。

4月8日の花まつりの日は素晴らしい晴天。
満開の桜の下で「しょうれんじこども園」の年長さん48名と一緒に花まつりに使う【甘茶】の苗を一緒に植えた。

※甘茶は山アジサイの一種で、葉を発酵させると甘みが出る不思議な茶。

植え付け作業のために急斜面を懸命にのぼる園児たち。少しハラハラしつつも、彼らにとっては小さな冒険なのだろう。大人がそっと見守り、さりげなく手を取りお山さんの薬草園へ到着。

東京から植物友達のフローリスト・猪飼牧子さんたちもきてくれた。
 「子供48人の柔らかい手を握ることなんてなかなかないよ。楽しかった、ありがとう」と牧子さん。

 

王冠をかぶった園児たちの姿はなんとも微笑ましい。この王冠はなんですか?と園長(住職)のげんじょうさんにお聞きすると

 

「お釈迦さまは、実は「シャカ国」という国の王子さまとして国王の下にうまれたのです。お釈迦様がお生まれになった時に発せられたとされる「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげ ゆいがどくそん」は「私が一番偉い」のではなく、「私という存在も、誰しも、この世にたった唯一人しかいないということにおいて、この上なく尊い」という言葉があります。そのメッセージを受けるオマージュとして冠があるのかも…しれませんね。」

 
とお答えいただいた。

つまり、この小さな伊豆の薬草園は、48名もの王子様・お姫様におつくりいただいたということだ!

冠をつけた誇らしい顔の園児たちと、花吹雪の中で【甘茶】を植えている。
なんだか不思議な夢を見ているようだった。

続けて、伊豆の国のお山で分けていただいた黒文字(クロモジ)や山椒、茶の木を植え込む。

チャノキはおそらく、昔山の持ち主だった方が植えていたのが野生化したのではないか?ということだった。
黒文字は私の背丈ほどある、美しい枝ぶりの苗。意外にも根は浅く、あっさりと採集。
一方でチャノキの背丈は腰元にも及ばないにもかかわらず根がものすごくしっかりと垂直に突き進んでおり、採集するのが本当に難しく苦戦する。

目に見えることだけではなく、もっとその奥に隠されていることを知らなければ本質はわからない。

1週間後に植物たちをチェックしてみると、全ての薬草が無事に根付いていたので一安心。
初夏の5月、そして夏にかけてグングンと育ってくれるだろう。 
 

喜びの季節 春の収穫祭

4月中旬の正蓮寺は最後となる牡丹桜がそれはそれは見事に咲いていた。

ほんの少しお裾分けいただき、牡丹桜シロップと桜の塩漬けに挑戦する。春をそのまま閉じ込めたような薄紅色のシロップは、ほんの少し桜葉を入れたので香りも最高。香りの主な成分はクマリン。甘くてうっとりする香りは抗炎症作用もあるのだが、私は気持ちが落ち込んだ時におすすめする。

楽しみでありつつも変化の多い4月。五月病に代表されるように精神が不安定にもなる春に、ほんのりこのシロップを入れたお茶を飲むのもいいかもしれない。

シロップは大成功!

けれども塩漬けは大失敗…しかし、桜の季節はもう終わり。
次なる挑戦はまた来年ということになる。この悔しさもまた楽しい。

季節を愛でる文化は日本以外では韓国の花茶文化も面白く、実は本記事を完成させている2025/4/29はソウル植物採集中。せっかくなので少し韓国の植物文化を少し紹介したい。


韓国では宗教・政治的、また立地としてお茶の元となるチャノキが手に入りづらい時期があった。
その際に彼らは柚子やなつめなどの果実、菊の花、梅の花、そして蓮の花などの花や様々な葉っぱを用いて季節ごとの喫茶を楽しむ。


日本の山菜を味わう文化と同様、韓国の春も山菜まつりだ。ブレンド茶にしたり、サラダや炒め物、ナムルにしたりと植物を味わうヒントは世界中にある。


どうしたらこども園の園児たちに植物との触れ合いを楽しんでもらえるだろうか?
地域の人に楽しんでもらえるだろうか?と思案中のアイディアも少しずつ形になってきた。

5/18(日)には、正蓮寺からほど近い伊豆の国市 ギャラリーnoir/NOKTAで小さな茶会を開催する。

The Apoke – 花摘みの茶会 - はあっという間に満席!午前の部も追加開催することに。
ここで最初に正蓮寺の薬草園の植物を味わってもらえる予定となる。

十二ヶ月の植物茶会、今年一年をかけて伊豆の植物を愛でながらじっくりと編集していくつもりだ。

 
※茶会の詳細はこちら

4月の下旬になると藤の花がもう満開!

正蓮寺の紋は、左三ツ藤巴。直径40センチほどの丸いプランターで寄せていただいた檀家さんからの藤の花も今年は見事に咲き誇る。

さて、5月はどんな花が開くだろう。

蓮の葉も芽吹いてきたので、ぜひ覗きにきてほしい。そして、いつか一緒にお茶をしましょう。
静岡茶はもちろん、たくさんの植物を抱えてお待ちしています。

 

あぁ、あまりにもこの春は美しかった。

 
植物の芽吹きや開花に感動するのと同じく、自分が生まれたことに感動したい。

 

植物採集家 古長谷莉花