植物日記

2025年5月31日

正蓮寺植物日記 | 5月 人と緑が共鳴する季節

正蓮寺植物日記 | 5月 人と緑が共鳴する季節

春爛漫花盛りの4月が過ぎて5月がやってきた。美しい緑の輝く季節。

蓮の葉が芽吹き、いくつか蕾もニョキニョキと顔を出す。満開の薔薇の花びらがこぼれ落ちる頃、正蓮寺の季節、蓮の季節にバトンタッチしていく。

4月8日の花祭りの日にこども園の園児たちとともに植えた薬草園の植物たちも、この一ヶ月で驚くほどの成長を見せる。この薬草たちを茶会にて振る舞うことになった。

 

植物採集家の小さな花摘み茶会

5月18日に伊豆の国市ギャラリーnoir / NOKTAにて、世界のお茶と正蓮寺薬草園の植物を使った花摘み茶会を開いた。

小さな花摘み茶会、として最初は午前の部だけだったが、嬉しいことに多くの方が集まり、午後の部も増設してもあっという間に満席。

参加者は近隣の方々から富士、東京、千葉の方も。20名近くの参加者、当日までどんな方が来るかわからず…静岡の方は特にお茶に関して舌が肥えているので、準備は難航した。

 

 

5月と言えば、新茶の時期。出来る限り自然で心と体に優しいものを飲んでいただきたい。

あちこち探し回って、減農薬・有機肥料を使用した志田島園の新茶を用意した。安倍川を上った山間部の玉川地区にある志田島園は江戸時代から7代続く茶農家で、清流が流れる絶景の茶畑だ。

新茶はそのままでも十分においしいのだが、5月下旬はすでに湿度が高く蒸し暑かったため、正蓮寺薬草園の「お山さん」に植えた山椒をブレンドして水出し茶を振る舞うことに。

水出しのお茶に入れた山椒の味わいと香りに驚き楽しんでいただけた。

スッキリした味わいに最初は「ミントかしら?」と言う声が上がったが、山椒の新芽だ、と教えると驚きの笑顔がこぼれた。

 

 

いずれお茶を作るためのチャノキも薬草園に植えてある。

お茶と仏教は切り離せない密接な関係にある。伊豆の山で野生化していたチャノキをお裾分けいただけたので、来年は正蓮寺の新茶・山椒ブレンドが楽しめるかもしれない。

日本ならではの茶の飲み方はもちろん、香り高い台湾の原生林から採集した「山茶紅茶」や、チャノキ以外の植物を用いた韓国の「花茶文化」も併せて紹介した。

ジャンルを超えたお茶会では、ハーバリスト、アロマセラピスト、植物科の先生や野草を愛する人など、幅広い植物を愛する人に出会うことができた。

植物が好き、という根底が繋がった人たちが何かの園で繋がり、共鳴していく。

いつか正蓮寺でも素敵な茶会が開かれるといいな、と夢見る。

 

正蓮寺の5月の花 薔薇の季節から紫陽花、蓮の季節へ

 

正蓮寺境内にある樹木葬墓地「えくぼのおか」では薔薇が咲き乱れる。

大振りの艶やかな花から、「マイクロ薔薇」と言われる一般的なミニバラよりもさらに小さな可憐な花まで、たくさんの薔薇に出会える。

本堂の前への道を辿ると、蓮の苗から芽が出てきている。驚くことに花芽がニョキニョキとついている株もある。蓮の季節、正蓮寺の季節ももうすぐそこだ。

 

そして、「甘茶」の花が咲きはじめた。花祭りに使う「甘茶」は「ヤマアジサイ」の一種。

正蓮寺薬草園には、アマギアマチャという伊豆半島の天城山に特化して自生する種類も植えてある。

控えめで、小さな紫陽花が6月も楽しめるだろう。

 

人も植物も共鳴する話

 

植物に携わっている人は聞いたことがあるかもしれない。
植物たちも会話をしている、と。

いくつかの研究論文が発表されており、虫に食べられるとその情報を「空気中の化学信号」として、まだ食べられ例ない細胞や他の植物にも伝えるメカニズムがあるというものだ。植物は苦味成分を出したり、葉を食べる植物の天敵となる蜂や鳥を誘引する成分を出す場合もあるそう。

 

目には見えないし、音も香りも人間には感知できない世界がある。
けれども確実に存在している、小さな世界。
人間の体内でも実は同じように知らぬ間に、共感・共鳴・共存している。

 

それは、菌だという。
人間の体内外には、約1,000兆個の常在菌が棲んでいる。

脳腸相関、脳と腸は、自律神経やホルモン、そして腸内細菌を含む免疫系を通じて、双方向に情報をやり取りしている関係にある。つまり、「脳の状態が腸に影響し、腸の状態が脳にも影響する」という仕組みだ。


精神が安定している人は腸内環境が整っていると言われる。また、社会的に成功していたり健康な人の菌には一定の傾向があり、高所得者ほど腸内細菌の多様性が高い傾向があるというアメリカの論文もある。

ヘルスケア企業のプロによると、人同士の交流で常在菌も交流しているそう。良い菌の人と触れ合えば、しっかりと共鳴していくらしい。

 

 

品質が高いことで有名なハーブ農園の方のお話しも興味深い。
純粋な心でまっすぐに育てている人とそうでない人の育てたハーブや果実は、味わいや香りが全く異なるという。

まだ科学の枠ではとらえきれない世界でも、植物や自然に触れ合う人は感覚や経験で思い当たることがあるかもしれない。


仏様はきっと見ていてくださる。
と感じることはあるが、見てくれているのは仏様だけではないようだ。

植物も菌も私たちを見守ってくれているのかも知れない。


植物採集家 古長谷莉花


※ 記事作成のため、正蓮寺ご住職の許可を得て、植物を採集させていただいております。