読むラジオ

2024年11月28日

読むラジオ|成道会に込めた願い

この記事はポッドキャスト「伊豆の国しょうれんじラジオ」2023年10月配信のエピソードの書き起こしとなります。音声版はこちらからお聞きいただけます。(リンク

【話しているひと】

渡邉元浄(以下、住職)
遠藤卓也(以下、遠藤)※お寺の相談役、各地のお寺に詳しい

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遠藤:元浄さん、こんにちは。

住職:こんにちは。

遠藤:急に涼しくなって、もう寒いくらいですね。

住職:季節がどんどん変わっていきますね。だんだん秋が短くなっていく。

遠藤:そんな中、今日は12月に行われる「成道会(じょうどうえ)」のお話ですね。

住職:お釈迦さまの人生のうち、大事にする記念日が3つあります。ひとつは、お釈迦さまがご誕生された4月8日。これが「花まつり」。

遠藤:別名、「降誕会(ごうたんえ)」ですね。

住職:そして、お釈迦さまが亡くなられた日(2月15日)に行われる「涅槃会(ねはんえ)」。涅槃というのは、亡くなることを言いまして、子ども園では精進料理を食べています。
そして、もうひとつの大事な記念日が、12月8日の「成道会」です。「成道」というのは、悟りを開くとか、仏道を成就する、と言われるものです。自分のすべきことが見つかった日、目が覚めた日、と捉えてもいいかもしれません。

遠藤:「成道会」に、こども園ではどのようなことをするのですか?

住職:本堂にみんなで集まり、ろうそくの灯りだけの暗い雰囲気の中で、お線香の香りをかぎながら、お釈迦さまの話をしようと思っています。
お釈迦さまが修行をしていたとき(苦行をして一番痩せていたときのお姿)の仏像をお檀家さんからいただいたので、みんなでその姿を観てみたり。お焼香をして、お経を読んで、すこし不思議な体験をしてもらおうかなと。

遠藤:子どもだからこそ感じられるものがあるような気がしますね。

住職:お釈迦さまがスジャータという村娘から乳粥をもらって元気を取り戻したお話や、お掃除の大切さや、「サルの王さま」の映画を観たりするのもいいですし。
大きな願いとしては、生まれた目的や、生まれた意味に自分で気づいてもらえたらいいなと。いろいろなたとえ話をしながら、生きることや死ぬことをお話ししてみるのはどうだろうと思います。

遠藤:園児くらいの年頃でも、死ぬことに思いを馳せて悩んだりするのでしょうか?

住職:そうですね。先日、あるお母さんから声をかけられました。
「最近、うちの子が “死ぬ” ということに関心を持っているみたいで。怖いとかさびしいとか……どうしたらよいでしょうか」と。
それにどのように応えるか、あんな話がいいかな、こんな話がいいかな、と思いながらここ数日生活していました。
今は、死というものにふれる機会があまりないですからね。しょうれんじこども園が寿光幼稚園・楽生保育園だった頃は、先代の園長は動物が大好きで、よくお葬式をしていました。

遠藤:動物のお葬式ですか?

住職:そうです。看板犬もいましたし。ヤギ、アライグマ、クジャク、クジャクバト、ハト、インコ、オウム、キュウカンチョウ、イグアナ、リクガメ、ウサギ、ネコ……と、動物園みたいな時期がありました。
動物たちに、子どもたちが給食の残りやお野菜をあげたりするんです。生活を共にしてきた生きものたちとのつらい別れをみんなで共有して、みんなで悼んで。頭で考えるのではなく、心に響くこと、涙が教えてくれる体験をこども園では大事にしてきました。でも、今は動物を飼育することが難しくなっていて、はがゆいなと思いますね。

そんな中、数年前、あるクラスの教室の窓ガラスにハトがぶつかって、死んでしまったことがあったんです。そのとき手伝ってもらっていた大工さんに棺を作ってもらい、僕は子どもたちに「遊ぶのは明日にして、今日はみんなでお数珠をもってお参りしようか」と言いました。
本堂で仏さまの前にハトを安置すると、みんな静かに座り始めて。園児が40人くらいいましたが、不思議とざわざわもせず、しーんとしていましたね。短いお経を読んで、先生がお焼香をして。子どもたちに「ハトさんどうしようか」と尋ねると、「埋める!」と。


本堂脇の先代の園長のお墓のそばに土があるので、僕がざっくざっくと掘って、「ハトさんに名前をつけよう」と言ったんです。鳥の名前はだいたいそうなるように、”ピーちゃん” になり、「ピーちゃん、またね」と、声をかけてくれる子もいました。
僕が土を少しずつハトにかぶせている間、真剣に見つめる子もいれば、どうしたらいいのかわからず眉間にしわを寄せて見る子もいれば、手を合わせている子もいましたね。そして、みんなが摘んできてくれたお花をたむけました。


すると、ある子が「ハトさん、どうなるの。どこへ行くの」と聞いてきたんです。そういうとき、僕は「お星さまになったよ」「お空に行ったよ」とは言いません。
「園長先生はわからないんだ。死んだこともないし、死んだ命がどうなるのか、お釈迦さまも書いてないんだ。でも、どうなったら嬉しい?考えてごらん」と、言うようにしています。
「ハトさんが今、どうしていたら君は嬉しい?」と聞くと、その子は「ハトさんは自由に空を飛んで、自分のお父さんやお母さんと一緒にいられてる。そうだったら嬉しいなぁ」とにこにこしながら言ってくれたんです。
僕ら大人は、ハトのお父さんとかお母さんとかあまり考えないでしょう。ハトはハトだもんなぁ。でも、子どもたちにとっては、ピーちゃんなんですね。ピーちゃんのお父さんとお母さんとピーちゃんがみんな一緒にいられたらいいな、と。


ですから、死ぬことが怖い、悲しいというのは、その通りだと思います。ただ、そこから始まる物語や、ピーちゃんとともに生きる暮らし、というものを子どもたちが想像できていたら嬉しいなと思いますね。

遠藤:想像するきっかけをピーちゃんがくれたんですね。

住職:世間では、死んで終わり、なのかもしれないですけれど。お釈迦さまは、死と共に生きていく姿、というものを伝えたかったんじゃないかなと。そういう感性を子どもたちや保護者のみなさまにもおすそ分けしたいという想いで、「成道会」ができたらいいなと思います。ハトがピーちゃんになった日。
ちなみに、しょうれんじこども園の保育目標の” その5” には、「仏様を拝み、生き物をいつくしむ子供」とあります。歴代の園長が整えてくれた道だなと思っています。

遠藤:ありがとうございました。今回はしっとりと。秋の雨が降る日に合う話を聞かせていただきました。

住職:ありがとうございました。

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書き起こし:小関優 https://yuukoseki.com

音声版(ポッドキャスト):

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